人材育成と残業時間

人材を育成する時にいつも思うことは、相手に自分の考えたことを正しく伝えることは非常に難しいということです。「伝え方が9割」という本が売れていることは頷けます。自分では客観的に伝えたと思っていても、相手には自分が意図したように伝わっていないことがよくあります。過去において、私はコミュニケーションスキルの重要性を痛切に感じさせられることがよくありました。コミュニケーションを取るタイミング、声のトーンやスピードなどで自分が気を付けることは多岐に渡っています。相手の体調も気にしなくてはいけません。伝達する時間などは極力午前中が良いと考えています。

人間が集中できる時間は諸説ありますが、15分あるいは45分とも言われています。肉体を使う作業をする場合は15分ごとに休憩を挟むと効率が良くなると言われています。デスクワークにおいても同様なことが言えると思います。人が作業をする時間は起床後12時間までが限界と言われています。つまり、朝6時に起きた人ならば夕方6時が限界になると言うことです。それ以降の時間は、「酒気帯び運転」と同じレベルの状態しか得られないと言われています。つまり、残業時間では、作業効率が大幅に低下しているとしかいえないことになります。

私が管理職時代に、上司に次のきつい一言を言われました。「部下に一か月で20時間以上残業をさせる人間は管理能力が著しく低い」。上司の仕事として大切なことは、仕事のタイムプランをたて「今やるべき事」と「後に回す事」を分けることで、やらなくてもよい事を部下にさせていないかを常に見直すことだということです。つまり、上司の仕事で一番大切なことは、新しく仕事を部下に与えた場合には、今までやらせていた仕事を一つ止めさせることなのです。何をやって何を止めるかが上司に求められていることなのです。

国会で審議されている「残業時間を一カ月で30時間以内にする」などというのは、医学的にみても愚かな行為でしかないと言えます。残業自体が無駄な行為の典型だからです。昔、私は軽い「うつ」にはなりましたが、幸いにして過労死には至りませんでした。仕事に優先順位をつけて、「仕事を途中で止める」ことができるかが作業効率を高める上でとても大切なことだと私は理解しました。経営者は、部下が残業しなくてならないという時には、何かがオカシイ状態になっていると気が付くことが必要です。経営者の仕事で重要なことは部下と対面でコミュニケーションを図ることです。部下との対話から残業時間が多いと感じたならば、経営者は削減すべき業務とやらなくてはいけない業務をその場で決めなくてはなりません。そのことに気が付かない人は、経営者失格ですから即刻退場してください。人は「資源」であり「何物にも代え難い資産」でもあります。資源を有効に活用できない企業は、市場に生き残っていくことはできないと考えるべきなのです。